はじめに

投資信託はシェフがつくる「料理」のようなもの

そもそも投資信託とは何なのかというと、運用のプロが複数の投資家から資金を集めて運用する金融商品です。私は普段、投資信託を説明するときには「料理みたいなものです」とお話しています。

例えば株、債券、不動産といった投資対象は、料理でいう肉とか野菜といった食材にあたります。これらの素材を使ってシェフが料理をするように、ファンドマネージャーが投資信託として運用します。そしてお客さまや投資家にその果実をお返しするわけです。投資信託はさまざまな対象に運用したうえでの成績が評価されるので、私のようなファンドアナリストは株や債券といった個別の素材の値動きではなく、できあがった料理である投資信託の運用成績を見ているということになります。

投資信託では原則元本保証はありませんので、「元本が減るのが怖い」「どうしたらいいか分からない」というお声をよくいただきます。結論からいうと、リスクはゼロにはできません。しかし、リスクとの付き合い方次第では、ゼロに近づけることはできます。

リスクとは価格が上にも下にも変動するブレ幅のことを言いますが、こうした価格変動リスクを最小限に抑える方法は以下の2つです。

1. 投資先を分散する

ある企業の株だけ、あるいは日本株だけといった集中的な投資をするとブレが大きくなるので、インデックス型投信を利用して市場全体に投資したり、世界の株や債券に幅広く投資することでリスクを抑えます。

2. タイミングを分散する

価格が変動するものを毎月一定額を買い付けていくと、価格の安いときに多く、高いときには少なく購入することになり、平均購入単価を安定させる効果があります。毎月一定額を積み立てていくiDeCoでは、投資タイミングの分散が自動的にできるようになっています。

投資先の分散については、投資信託を選ぶ際に皆さん自身で実現する必要がありますが、タイミングの分散はiDeCoなら自動的にできます。ちなみにこうした積立投資自体は、NISAでも特定口座でも可能です。

積立投資を成功させる3つのポイント

私が普段セミナーなどで個人投資家の皆さんと接するなかで、積立投資で成功する人とそうでない人では、それぞれに共通する傾向があることに気づきました。積立投資を成功するためのポイントは、以下の3点にまとめられます。

1. 結果を急がない

長期投資の重要性や積立投資のメリットを説明すると、多くの方は「よくわかりました!」と喜んで始めてくださるのですが、かなりの割合で半年から1年くらいでやめてしまいます。

これは本当にもったいないことです。積立は長く続けてこそ意味があり、短期間では結果を出すことができないからです。

たとえば、日経平均株価に連動する投資信託に2011年の1月から15年末まで、5年間積み立てを続けたケースを例にあげてみます。この期間は東日本大震災やアベノミクス相場、チャイナショックや欧州債務危機など、市場を動かす大きな出来事がたくさんありました。

運用成績をみると、最初の約22か月、約2年ほどはマイナスの状態が続きました。積立の効果が見えない苦しい期間です。こういう状態が続くと、半年くらいでやめてしまう方が非常に多いんです。心が折れてしまうんですね。

しかし23か月目、ちょうどアベノミクス相場がスタートした12年11月に運用成績がプラスに転じ、以後は評価額がどんどん大きくなっています。マイナスだった期間、耐えて積立を続けた方は、アベノミクス相場で大きな利益を手にすることになるのです。

日経平均株価がこの期間の最安値となる8,928円をつけたのは11年11月なので、安値を乗り越えてもプラスになるまでは1年かかったことになります。この苦しい時期にしっかり種まきできた方の資産は、その後少しぐらい下がってもマイナスになることはあまりありません。そのぐらい、マイナスの時期に種蒔きを続けた効果というのは大きいのです。積立の成功体験を得るまでには相応の時間が必要なんです。

2. 続けること

積立はとにかく続けることが重要です。相場が低迷しているときは、安く仕込んで将来の上昇に備える種蒔き期です。安値圏でマイナスが出ているようなときこそ、同じ銘柄で積み立てを継続することが重要です。

ちなみに私の場合、日経平均株価に連動する投資信託に06年に積立を始めました。ところが08年のリーマンショックで大きな評価損を出してしまい、プラスになるまでに5年くらいかかりました。100年に一度の金融危機ですから、これはかなり長くかかった方です。平均的にはだいたい2年ぐらいで結果が出ることが多いかなと考えています。

短期間で大儲けを狙うようなトレードスタイルを否定するつもりはありませんが、そういった投資に慣れている方がiDeCoを始められる際は、頭の切り換えが必要です。とにかくiDeCoでは、腹をくくって長期で運用していただくことが重要です。

3. 無理な金額設定をしない

積立は長く続けてこそ成果を出せるものなので、あまり無理な金額を設定して続けられなくなっては意味がありません。積み立てる金額は自由に増減できますが、最初に無理をするよりは、少ない金額で始めて後から増額する方が、効果は出やすくなります。

iDeCoでは一時的に積立を続けるのが難しくなった場合、拠出金をゼロにすることも可能です。この場合、加入者は「運用指図者」という立場になりますが、この期間が長いと受け取り時に不利になることがあります。積み立てた年金を老後に一時金として受け取るとき、退職所得控除という税制優遇を受けることができますが、これは積み立てていた期間が長いほど有利になるしくみだからです。

積立をお休みしていた期間は計算に入れることができないので、積立の下限である5,000円でなんとか続けていくのもiDeCoのメリット活かすポイントになります。

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